WEEPING LION 嘆きの獅子

若いときに動物彫刻で名高いアントワーヌ=ルイ・バリー (1796-1875)の指導を受けたことがあるロダンでしたが、動物をモチーフにした作品は稀少です。ロダンの発想の源として、エルセンは1878年にサロンに出品されたフレデリック=オーギュスト・バルトルディ(1834-1904)による獅子像をあげ、本作の制作年の始まりを1878年頃としています1)。他方で、本作は墓碑の一部に組み込むことが計画されていたと考えられており、作品に刻まれた日付から、ロダンの《青銅時代》の政府買い上げや《地獄の門》の受注にも尽くした政治家エドモン・チュルケの夫人の墓碑のために制作された可能性が指摘されます2)。「傷ついた獅子」という別名が示すとおり、ライオンの下半身は傷を負っているかのように力なく横たわっています。反対に、最後の力を振り絞りうめき声をあげる頭部と上半身を支える両前足には力が込められています。細部の表現を見ると動物の動きとしては不自然であり、実際の獅子に取材した写実表現ではなく、こうした場面を想定した象徴的な像に見えます。

国立西洋美術館所蔵作は石膏像ですが、その制作の過程は不明です。同作のブロンズ像に比較すると、細部表現がより明瞭かつ繊細に残っています。

1)Albert E. Elsen et al., Rodin’s Art, New York: Oxford University Press, 2003, p.61.
2)Jacques de Caso, Patricia B. Sanders. Rodin's Sculpture, A Critical Study of the Spreckels Collection, San Francisco: The Fine Arts Museums; Rutland, Vermont and Tokyo: Charles E. Tuttle Co. Inc., 1977, p.117. Elsen et al., pp.60-63.

(大屋美那監修/編集『手の痕跡 : 国立西洋美術館所蔵作品を中心としたロダンとブールデルの彫刻と素描』 展覧会図録、東京:国立西洋美術館、2012年)

制作年

1881年

材質・技法・形状

石膏

寸法(cm)

29 x 34 x 16

署名・年記

台座上面後方に署名、右前足元に年記: Rodin / 1881 MAI; リボンに書込み: GARDE(B)IEN

所蔵経緯

松方コレクション

Standard ref.

M1279

分類

彫刻

所蔵番号

S.1959-0031

来歴

松方幸次郎氏購入; 1944年フランス政府が接収; 1959年フランス政府より寄贈返還.

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