THE KISS 接吻

この作品は、1881年から82年にかけて《地獄の門》の一部として構想されたもので、1887年、初めて発表されたときには「フランソワーズ・ド・リミニ」という題名でした。イタリア名フランチェスカ・リミニはダンテの『神曲』「地獄篇第5歌」に登場する女性で、接吻の相手はパオロ・マラテスタです。年老いた夫のいるフランチェスカは、夫の年の離れた弟パオロと読書をしていたときに互いの愛を確認してしまいます。そこに突然現れた夫によって、その場でふたりは殺され、地獄の第2環で永遠に風に運ばれ、漂う罰を受けることとなったのです。『神曲』では、さめざめと涙を流すフランチェスカの姿が描写されています。
この二人像は、「地獄の門」のマケット第三構想左扉の中央にその姿が認められるとおり、早い段階から《地獄の門》の主要モチーフのひとつとなりました。ところが、1886年頃まではその位置に置かれることになっていたものの、最終的には《地獄の門》から取りはずされました。理由としては、この作品が、道ならぬ愛とはいえ、真実の愛の喜びを呼び起こすものであって、《地獄の門》全体の壮絶な悲劇性とそぐわないと判断されたからと考えられています。結局、《地獄の門》には「パオロとフランチェスカ」の主題で別の二人像が加えられました。

1898年のサロン展では、《接吻》の大型の大理石像が《バルザック》の石膏像とともに出品されました。出品前から後者がスキャンダルを巻き起こすことを予想していたロダンは、傍らに甘美で伝統的な主題の《接吻》を置くことにより、評価を落ち着かせようと考えたのでした。ロダンが意図したとおり、《接吻》はその造形の簡潔な美と印象的なふたりの組み合わせにより大成功を収めました。その後も大型の大理石像が続けて発注されたほか、バルブディエンヌ鋳造所がロダンとの契約により、何種類かの縮小版ブロンズ像を多数制作、販売しました。国立西洋美術館所蔵作は、オリジナル・サイズでアレクシス・リュディエ鋳造所による鋳造です。

(大屋美那監修/編集『手の痕跡 : 国立西洋美術館所蔵作品を中心としたロダンとブールデルの彫刻と素描』 展覧会図録、東京:国立西洋美術館、2012年)

制作年

1882-87年頃(原型)

材質・技法・形状

ブロンズ

寸法(cm)

87 x 51 x 55

署名・年記

台座背面上に署名: A. Rodin; 台座背面右下に鋳造銘: Alexis RUDIER / Fondeur. Paris

所蔵経緯

松方コレクション

Standard ref.

M1252

分類

彫刻

所蔵番号

S.1959-0004

来歴

松方幸次郎氏購入; 1944年フランス政府が接収; 1959年フランス政府より寄贈返還.

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