SMALL TORSO 小さなトルソ

ロダンが収集していた古代彫刻には、身体の一部を欠いた像、あるいは手や足のみといった像が多く含まれます。こうした身体の断片のもつ表現力にロダンは魅了され、自らもあえて身体全体をそろえることなく作品として発表しました。《小さなトルソ》では、肩の動きに合わせ、わずかに腰をひねった形が古代彫刻を思わせます。手のなかに収まるほどの小さな像ですが、緊張感のある面のつながりに、ゆったりとした大きささえ感じさせる作品です。完成した形をあえて壊して断片化した作品としては、《瞑想》や《説教する洗礼者ヨハネ》から展開した《歩く男》といった作品があり、これらを通じてよりはっきりとその理念が表されました。

ロダンの秘書を務めたこともあるドイツの詩人ライナー・マリア・リルケ(1875-1926)は、ロダンの腕のない立像を指して「必要なものは、なにひとつ欠けていない。すこしも補足をゆるさない完全な、完成されたもののまえに立つのと同じなのである。
(中略)多くの事物から一つの事物をつくること、一つの事物のどんな小さな部分からも一つの世界をつくること、これが芸術家のなす権限である」1)と語り、ロダンの断片化された身体のつくりだす世界観を表現しています。

1)ライナー・マリーア・リルケ、塚越敏訳『オーギュスト・ロダン 論説 講演 書簡』東京:未知谷、2004年、29-30頁。

(大屋美那監修/編集『手の痕跡 : 国立西洋美術館所蔵作品を中心としたロダンとブールデルの彫刻と素描』 展覧会図録、東京:国立西洋美術館、2012年)

材質・技法・形状

ブロンズ

寸法(cm)

28 x 20 x 12

署名・年記

左脚に署名: A. Rodin; 右脚に鋳造銘: Alexis RUDIER. / Fondeur. Paris.

所蔵経緯

松方コレクション

Standard ref.

M1291

分類

彫刻

所蔵番号

S.1959-0043

来歴

松方幸次郎氏購入; 1944年フランス政府が接収; 1959年フランス政府より寄贈返還.

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