NEREIDES ネレイスたち
3人の女性が流れるような曲線を描きながら組み合わされたこの作品は、《ネレイスたち》あるいは「セイレンたち」と呼ばれます。この作品の官能的な表現は同時代のコレクターたちに好まれ、ブロンズで3種類のサイズが制作されたほか、大理石でも少なくとも4点制作されたことがわかっています。ネレイス、セイレンはともにギリシャ神話に登場する海の精の呼び名です。セイレンは魅惑的な歌声により船乗りたちを惑わせ命を奪う恐ろしい存在として、ホメロスの『イーリアス』や『オデュッセイア』に登場します。この主題はとくに19世紀末の象徴主義の芸術家や詩人たちに好まれ、多くの作品の題材となりました。また本作について、批評家のアルセーヌ・アレクサンドルはロダンが愛好していたワーグナーの歌劇の登場人物になぞらえました。アレクサンドルは波間に姿を現す3人の女性のイメージを、歌劇『ニーベルングの指輪』 (1848-74年作曲)でライン川の川底から黄金を集めて指輪をつくり、それを守る3人の乙女の姿に重ねあわせています1)。
この三人像は《地獄の門》に登場する多数のファウナの一部として制作され、最終的には左扉の「ウゴリーノ」のすぐ左上に配されました。しかしこれとは別に、《地獄の門》から独立したひとつの作品として、1887年の画廊での展覧会以降、繰り返し展示されています。また後に《詩人の死》 (1890年頃、石膏、パリ、ロダン美術館所蔵)や《ヴィクトル・ユゴー記念碑第2案》(1898年頃、石膏、パリ、ロダン美術館所蔵)にも組み込まれました。後者では、ガーンジー島に流され、岸壁で思索にふけるユゴーの足もとから囁きかける女性像として登場します。これらの2作品においてこの3人の女性像は、ともに詩人の想像力を喚起するミューズとしての役割が与えられています。
1) Exposition Rodin, exh. cat., Paris: Société d'Édition Artistique, 1900, pl.35, p.6.
(大屋美那監修/編集『手の痕跡 : 国立西洋美術館所蔵作品を中心としたロダンとブールデルの彫刻と素描』 展覧会図録、東京:国立西洋美術館、2012年)
制作年
1887年以前
材質・技法・形状
ブロンズ
寸法(cm)
43 x 47 x 35
署名・年記
台座正面右下に署名: A. Rodin
所蔵経緯
松方コレクション
Standard ref.
M1283
分類
彫刻
所蔵番号
S.1959-0035
来歴
松方幸次郎氏購入; 1944年フランス政府が接収; 1959年フランス政府より寄贈返還.
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