MAN WITH THE BROKEN NOSE 鼻のつぶれた男
《鼻のつぶれた男》は、ロダンが聖体礼拝会の修練士としての道を脱し、再び彫刻家として活動するようになってすぐの1863年に制作されました。モデルはロダンも顔見知りの労働者で、まわりから「ビビ」と呼ばれていました。歪んだ鼻をもつ顔はけっして美しいといえるものではありませんでしたが、ロダンはその頭部の形の良さに惹かれ、古代の哲学者の肖像をも思わせる厳粛な面持ちの頭部像を制作したのです。しかしまだ世に出る前のロダンのアトリエは、厩を改装したもので暖房も効かなかったため、冬の厳しい寒さで作品は凍ってしまいました。そして粘土でできた後頭部にはひびが入り、崩れ落ちてしまったのです。サロン展への出品を考えていたロダンは、急遽この作品をマスクにつくり替え、翌1864年のサロン展に送りました。古代の肖像の形式を継承した彫刻であったにもかかわらず、つぶれた鼻という醜悪な特徴に加え、後頭部のない不完全なマスクという形式であった点が審査員の評価を下げ、ロダン最初の応募となったこの作品は落選します。その後、本作は放置されていましたが、1872年に自身で作品を修復のうえ、ブリュッセルのサロン展に出品しました。ここで成功を収め、本作は大理石に移され、1875年にパリのサロン展に出品されることとなりました。これがロダンにとっては初めてのサロン展出品です。この作品は人気を博し、次々とブロンズ像が制作されますが、ロダンは鬚や髪、顎や首に少しずつ変化をつけた複数の型を1900年頃まで制作しました。ブールデルは本作について「モデルの実人生とローマ時代の大理石」というふたつの源から発していると評しています1)。国立西洋美術館所蔵の《鼻のつぶれた男》はロダン美術館によりタイプIIの第1モデルと呼ばれているもので、1885年以前に制作された型からの鋳造とされています。
1) Antoine Bourdelle, "Au Maitre Rodin près de Son Ombre Ensevelie," Bourdelle, 1978, p.156.
(大屋美那監修/編集『手の痕跡 : 国立西洋美術館所蔵作品を中心としたロダンとブールデルの彫刻と素描』 展覧会図録、東京:国立西洋美術館、2012年)
制作年
1865年
材質・技法・形状
ブロンズ
寸法(cm)
27 x 20 x 22
署名・年記
頸部左に署名: A. Rodin; 頸部右に鋳造銘: ALEXIS RUDIER / Fondeur. PARIS
所蔵経緯
松方コレクション
Standard ref.
M1275
分類
彫刻
所蔵番号
S.1959-0027
来歴
松方幸次郎氏購入; 1944年フランス政府が接収; 1959年フランス政府より寄贈返還.
※このサイトでご覧いただけるすべての3Dモデルは、山田修氏により計測・作成されたものです。
