I AM BEAUTIFUL 私は美しい

ジェシー・リプスコムが撮影したロダンのアトリエでの一連の写真によると、「堕ちる男」が《地獄の門》に登場するのは1887年頃のことです。ティンパヌムのすぐ下の張り出しをつかもうともがく男は、むなしく背後の空間に身を投げ出されそうになっています。彫刻の枠から飛び出し、まるでだまし絵のなかの人物のように、彫刻の内部とその外側の世界をつなぐ存在です。この人体像は「うずくまる女」と組み合わされて、右柱の上部にも見ることができます。この組み合わせは《私は美しい》の題名で知られる単独像となりました。ここでは「堕ちる男」は身を起こし、両足でしっかりと女性の身体を支えています。よく見ると、「堕ちる男」も「うずくまる女」も組み合わせの過程で、わずかに腕や脚の位置が変更されているのがわかります。この二人像は、1886年、「発情の習作」という題名でパリの画廊に展示されました。ロダンのアサンブラージュとしては、最も早い時期の作品ということができます。台座には、ボードレールの詩『悪の華』「第17歌 美」の最初の4行が刻まれます。「おお死すべき者どもよ!私は美しい、石の夢のように、/そして人々がかわるがわる触れては傷ついた、私の胸は、/物質と同じように永遠で無言の愛を/詩人の心によびさますように作られている」(阿部良雄訳)。

(大屋美那監修/編集『手の痕跡 : 国立西洋美術館所蔵作品を中心としたロダンとブールデルの彫刻と素描』 展覧会図録、東京:国立西洋美術館、2012年)

制作年

1885年頃(原型)

材質・技法・形状

ブロンズ

寸法(cm)

70 x 32 x 33

署名・年記

台座正面に署名: Rodin; 台座正面に書込み(ボードレール『悪の華』より「美」): “Je suis belle, o Mortels, Comme un rêve de pierre / Et mon sein, où Chacun s est meurtri tour a tour, / Est fait pour inspirer a poete un Amour / Etincelant muet ainsi que la matiere. [sic]”; 台座右側面に鋳造銘: ALEXIS. RUDIER. / FONDEUR. PARIS.

所蔵経緯

松方コレクション

Standard ref.

M1276

分類

彫刻

所蔵番号

S.1959-0028

来歴

松方幸次郎氏購入; 1944年フランス政府が接収; 1959年フランス政府より寄贈返還.

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