HEAD OF SAINT JOHN THE BAPTIST 洗礼者ヨハネの首

ロダンは1880年に《説教する洗礼者ヨハネ》を制作していますが、それから9年後に打ち落とされ皿に載せられたヨハネの首を制作しました。骨張った顔つきやゆるくうねった髪など前者と共通する特徴はありますが、シリーズとして関連しているものではないでしょう。むしろサロメやユディト、ゴリアテなどの斬首のテーマは、ロダンの周囲にいた象徴主義の文筆家や画家、彫刻家に好まれたものであり、ロダンが斬り落とされたヨハネの首のテーマを制作した背景には、こうした同時代の傾向があったと思われます。ここではヨハネは目を閉じ、口を半開きにした表情でとらえられています。ロダンのアトリエを写した写真には、あえてヨハネの頭部を作業台の上に下向きに置いて撮られたもの(1886年頃、パリ、ロダン美術館所蔵)があり、それが《洗礼者ヨハネの首》の最初の作品(大理石)である、顔を皿の面にたいして横にした作品につながったとも考えられます。創作の源として、ロダンはしばしば写真を用いていたのです。この最初の大理石像が人気を博し、以後、首を横に向けたタイプの《洗礼者ヨハネの首》は続けて制作され、現在では10点の存在が確認されています1)。大理石で制作された、顔を上に向けたタイプの《洗礼者ヨハネの首》は、国立西洋美術館所蔵作が唯一のものです。《最後の幻影》(1902年?、大理石、パリ、ロダン美術館所蔵)で頬に手をあてる少女とともに大理石に彫られた男性の顔は、このヨハネと特徴が一致します。ロダンはこの作品で物思いに耽る優雅な女性と苦悩する男性を対比させたと述べており2)、ヨハネの首は苦悩や死を象徴するものとして繰り返し用いられました。
1)Le Normand-Romain, 2007, vol.2, p.646.
2)Letter from Rodin to Helene de Hindenburg, Correspondance de Rodin, vol.2, Paris: Éditions du Musée Rodin, 1986, p.95, no.112.

(大屋美那監修/編集『手の痕跡 : 国立西洋美術館所蔵作品を中心としたロダンとブールデルの彫刻と素描』 展覧会図録、東京:国立西洋美術館、2012年)

材質・技法・形状

大理石

寸法(cm)

25 x 42 x 45

署名・年記

台座上面左に署名: A. Rodin

所蔵経緯

松方コレクション

Standard ref.

M1299

分類

彫刻

所蔵番号

S.1959-0051

来歴

松方幸次郎氏購入; 1944年フランス政府が接収; 1959年フランス政府より寄贈返還.

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