FUGIT AMOR フギット・アモール

《地獄の門》のために構想され、二度にわたって右扉に登場する「フギット・アモール(去りゆく愛)」は、ダンテの『神曲』「地獄篇第5歌」に登場する「パオロとフランチェスカ」の物語に由来しています(《接吻》の解説参照)。
主題としては、よこしまな愛に身を任せたために命を奪われ、地獄の第2環において互いに顔を合わせることなく、絶え間なく浮遊するふたりの姿を表しています。この二人像は個別に制作された人物像を組み合わせたもので、男性側は《地獄の門》の「ウゴリーノ群像」に登場し、その後「放蕩息子」という題名をつけられ、単独像のほか多くのアサンブラージュの素材とされました。二人像としては《フギット・アモール》のほかにも「スフィンクス」「スファンジュ(女のスフィンクス)」「夢」「去りゆく愛」などと題され、展覧会に出品されました。
《フギット・アモール》の引き返すことのできない破滅への道という主題は、ロダンが愛読したボードレールの『悪の華』 (1857年初版)にもつながるものであり、同時代の象徴主義者たちが好んだテーマです。世紀末の絵画にしばしば登場する、男を不幸に陥れる女性、すなわち「ファム・ファタル(運命の女性)」がここにも姿を現しています。この作品は人気を博し、数多くブロンズに鋳造されたほか、大理石にも複数彫られました。これらのヴァージョンでは人物構成はそのままで、それぞれ台座の形状が異なります。

(大屋美那監修/編集『手の痕跡 : 国立西洋美術館所蔵作品を中心としたロダンとブールデルの彫刻と素描』 展覧会図録、東京:国立西洋美術館、2012年)

材質・技法・形状

石膏

寸法(cm)

26 x 49 x 39

署名・年記

台座上に署名および献辞

所蔵経緯

旧松方コレクション

Standard ref.

M1304

分類

彫刻

所蔵番号

S.2017-0003

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