BUST OF HENRI ROCHEFORT アンリ・ロシュフォールの胸像

ロシュフォール(1831-1913)は政治家であり、ジャーナリストとしても活動しました。パリ・コミューンにおいてコミューン政府を支持したことから捕らえられ、ニュー・カレドニアに流刑の罰を受けましたが、まもなく仲間とともに逃亡に成功します。1880年に恩赦を受けたロシュフォールはパリに戻り、左翼紙『ラントランジジャン』を創始するなど、活発な政治活動をします。美術にも造詣が深く、画家や彫刻家と積極的に交流し、作品を収集したり美術批評も発表したりしています。ロシュフォールをロダンに紹介したのは、ジャーナリストのエドモン・バジールとされています。ただしロダンは政治的な立場を表明することには常に慎重だったので、《アンリ・ロシュフォールの胸像》の制作になんらかの政治的意図があったとは考えられません。
《アンリ・ロシュフォールの胸像》をロダンが最初に制作したのは、1884年でした。ロダンがポール・グセルに語ったところによると、胸像を制作したいとロダンから申し出て、快く了承されたとあります。「彼〔ロシュフォール〕は陽気な人柄であったが、ほんの少しの時間もじっとしていることができなかった。彼はふざけて、わたしのプロ意識をとがめたものだ。彼が笑いながら言うには、お前は一塊の粘土をつけてはまた取り除いて、時間ばかりが過ぎていく」1)。こうしてその年に一度はでき上がった胸像は、1896年にジュネーヴなどで展示されています。国立西洋美術館所蔵の作品は、ロダンが1897年に再び手を入れ、職人のアンリ・ルボセによって拡大されたヴァージョンです。ロダンはこのときに、頭部を少し前傾させ、うつむき加減にしています。これにより張り出した前頭部がいっそう強調され、自らの思索に集中する厳しく知的な表情が生まれました。本作は当時の批評界からも絶賛され、ジェフロワはロダンの代表作であるだけでなく、歴史に刻まれるべきものと評しています2)。

1)Auguste Rodin, L'Art, Entretiens Réunis par Paul Gsell, Paris: Bernard Grasset, 1911, p.111.
2)Marion Jean Hare, The Portraiture of Auguste Rodin, Dissertation for Ph.D., Stanford: Stanford University, 1984, p.306.

(大屋美那監修/編集『手の痕跡 : 国立西洋美術館所蔵作品を中心としたロダンとブールデルの彫刻と素描』 展覧会図録、東京:国立西洋美術館、2012年)

制作年

1884(1897年に拡大)

材質・技法・形状

ブロンズ

寸法(cm)

75 x 43 x 45

署名・年記

胸部右に署名: A. Rodin; 背面下に鋳造銘: ALEXIS RUDIER / FONDEUR. PARIS

所蔵経緯

松方コレクション

Standard ref.

M1296

分類

彫刻

所蔵番号

S.1959-0048

来歴

松方幸次郎氏購入; 1944年フランス政府が接収; 1959年フランス政府より寄贈返還.

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