BEAUTIFUL HEAULMIÈRE 美しかりしオーミエール

この作品は、1889年、アンジェで開催された展覧会で初めて発表されたときには、「老女」という題名でした。以来、この作品については批判、称賛ともに数多くの言及がなされています。それほどに、この老いて肉が垂れ下がり、手足は骨と皮ばかりになった女性の身体表現が観る者に強い衝撃を与えてきたといえるでしょう。この作品のモデルは、マリア・カイラというイタリア人のプロのモデルで、同時期にはジュール・デボワの作品《悲惨》(1887-89年頃、テラコッタ、パリ、ロダン美術館所蔵)のモデルを務めていました。老体を描きだした彫刻としては、後にカミーユ・クローデル(1864-1943)やコンスタンタン・ムーニエ(1831-1905)などの彫刻家たちも制作しています。《美しかりしオーミエール》という題名は、フランソワ・ヴィヨンの『遺言詩集』(1461年頃)のなかで、かつて絶世の美女とささやかれた老女に由来しています。文学に由来するものでありますが、作品はむごいまでの写実性を併せもっています。《地獄の門》の左の柱下部には、同じモデルによる老女の姿が、若い女性や幼児とともに描かれ、女性の一生が象徴されています。

当時の批評ではそのあまりの醜い表現に恐怖を訴えるものもありましたが、ロダンはあくまでも本作を通じて美を示そうとしたのです。ただその場合の美は、一般に考えられる心地よさとは別のものでした。芸術家は「魔法の杖の一振り」で一般には醜いと思われているものをとらえて美に変えることができる。このように説くロダンは、本作を示しながら、美/醜と個性を別物ととらえ、真の芸術家は個性=目の前にある自然の真実をとらえる者のことをいうと断言しています1)。

1) Auguste Rodin, L'Art, Entretiens Réunis par Paul Gsell, Paris: Bernard Grasset, 1911, p.52.

(大屋美那監修/編集『手の痕跡 : 国立西洋美術館所蔵作品を中心としたロダンとブールデルの彫刻と素描』 展覧会図録、東京:国立西洋美術館、2012年)

制作年

1885-87年(原型)

材質・技法・形状

ブロンズ

寸法(cm)

50 x 31 x 24

署名・年記

台座右側面に署名: A. Rodin; 台座背面下に鋳造銘: Alexis Rudier / Fondeur Paris

所蔵経緯

松方コレクション

Standard ref.

M1253

分類

彫刻

所蔵番号

S.1959-0005

来歴

松方幸次郎氏購入; 1944年フランス政府が接収; 1959年フランス政府より寄贈返還.

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