ADAM アダム
1880年にフランス政府から依頼を受けた《地獄の門》には、その左右に《アダム》と《エヴァ》が設置されることが計画されていました。ダンテの『神曲』「地獄篇」を主題とした「門」では、現世で罪を犯した多数の人々が苦悩と悲しみのなかに浮遊しています。アダムとエヴァは人類最初の罪人として、「門」の主題につながります。《エヴァ》が両腕を胸の前で組み、顔を背けるポーズで苦しみながらの抵抗を示しているのにたいして、《アダム》は大きく首をうなだれ、 両腕も力なく落とし、諦めの表情です。この《アダム》の肩と腰を大きくねじったポーズは、数年前に初めて訪れたイタリアやルーヴル美術館で目にした、ミケランジェロの人物像に由来します。システィーナ礼拝堂の天井に描かれたアダム像、あるいはフィレンツェ大聖堂の《ピエタ》、ルーヴル美術館の《奴隷》などが源泉としてあげられます。滞在するフィレンツェから恋人ローズに向けて手紙を書いたロダンは、ミケランジェロの彫刻の前でスケッチをするのではなく、宿に帰ってから記憶をもとに素描を描いたと言っています。ロダンにとってミケランジェロは単に形を模倣する対象ではないのです。記憶のなかに一度落とし込まれ、自分のものとして出てきた形が《アダム》や《エヴァ》、《青銅時代》などに結びついたといえるでしょう。
ロダンは《アダム》については、イタリア旅行から帰ってまもなく制作にとりかかっています。しかしある程度進められた段階で一度放置され、1881年10月、美術省から《地獄の門》の 両脇に設置するための2体の大型像の注文を受けて、あらためて完成されました。石膏像としては、美術省の発注より以前の 1881年のサロンに《男性の創造》という題名で出品され、続けて《エヴァ》が制作されました。結局、《地獄の門》は当初計画されていた装飾美術館の建設が変更になったため、ロダンが亡くなるまでアトリエに置かれており、両脇に《アダム》と《エヴァ》を配置する構想も生前に実現することはありませんでした。
(大屋美那監修/編集『手の痕跡 : 国立西洋美術館所蔵作品を中心としたロダンとブールデルの彫刻と素描』 展覧会図録、東京:国立西洋美術館、2012年)
制作年
1881年(原型)
材質・技法・形状
ブロンズ
寸法(cm)
198 x 76 x 84
署名・年記
台座右側面に署名: Rodin; 台座背面右に鋳造銘: Alexis. Rudier / fondeur. Paris
所蔵経緯
松方コレクション
Standard ref.
M1249
分類
彫刻
所蔵番号
S.1959-0001
来歴
松方幸次郎氏購入; 1944年フランス政府が接収; 1959年フランス政府より寄贈返還.
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